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―――商人殿その、"スパンコーン"という御名前、本当に気に入っているのですね。
シズクが苦笑いしつつも、素直な感想を口にすると、それは大袈裟に、普段商いを行う時の道化の様な振る舞いを割り増しにした様な状態で、商人は大きく肩を竦められました。
―――それはそうよ、私としては嫁いで世間を納得させる程度で、出来れば子ども授かりたいとは思っても、子どもは1人では授かれないからね、この私に嫁ぎ先があるだけでも十分に考えていたし、御縁があったなら程度で、諦めるとういか、運任せと思っていたのよ。
それから不敵な部分は大いに含みますが、明るさも十分強い笑顔を浮かべて故郷の帰路へと旅立とうする偽名の青年をビシリと力強く指さします。
すると、別に何かしらの攻撃を物理的受けた訳でもないのに、"うっ"という声を出して偽名の青年が実に判り易く狼狽えて、旅立つ為に身体の殆どの箇所を覆う様なコートを纏った身体を引きました。
十分滑稽に見受けられる動きで、まるで即興の短い喜劇でも、観覧しているような心持になりつつ、年若い乳母は話しの続きを待ちます。
―――でも、偽名の青年によれば、私が嫁ぐ予定のあの御方は、次の子どもを授かる事に、名前を既に考えている位に前向きみたいだし。
―――そ、それは父上が他の義母上との間にかもしれな……。
女商人の勢いに負けじと、偽名の青年が反論として口に出した内容は、シズクも頭の片隅で少しは考えた可能性でもありました。
けれども偽名の青年は最後まで語らず中断し、両手を挙手する"全面降伏"という動作をして、"はあっ"と大きく息を吐き出します。
―――いえ、そうですね、父上が次に娶るとしたなら、商人殿、貴女で、父上もサブノックの文化で考えられない、常識破りの行動力を持っている婦人だから、という事もあると思います。
―――ヒャッハー、あら、予想外に早く素直になったわねえ。
突きつけていた人差指を引っ込め、女商人は腕を組んで満足気に頷いたなら、偽名の青年は利き手の方をシズクに向けて、すっかり板についてきた状態の苦笑いを浮かべ口を開きました。
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