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―――俺なりに出世の努力しますけれども、王都を拠点とするシズクさんとは、こうなってしまっていると多分長い期間合う事は叶いませんからね、俺の個人的な感情で御婦人に下手な心配の種を残しておきたくないから、素直になったまでです。
ここで異国の青年が口にしたきょてんという専門的に感じる言葉に、年若い乳母は意味を思い出す事に少々時間を必要とし、この穏やかで優しい青年が武人を祖にした国の出身という情報が自然と頭に流れてきます。
どうしてそんな事を思い出したという自問に理由づける様に、掘り返されるのは平定前の記憶で、件の癖っ毛八重歯の秘書的な御仁が、何かの折に際して、幾度か口にして考え込んでいる姿を見た覚えがあったからでした。
その際にはその手に何かしら紙のような物を数枚手にしては見比べ眺めながら、"拠点"という単語を口に出していたのを、思い出す事にも繋がります。
一方商人の方は直ぐに拠点の意味を理解が出来ていたのですが、その単語の効果がふと真面目な顔に戻すことになり、その時はまだ拠点の意味を思い出そうと、考え込んでいる中途のシズクの方に視線を向けて口を開きます。
―――確かに、異国の武人で王侯貴族の1人の貴方の立場としては、セリサンセウムの王都は訪れ難い場所になったけれども、シズクにというか、セリサンセウムの一般的な民にとっては至極安全な場所になったわ、だから何も心配はしなくても大丈夫よ。
―――そう、ですね。
商人が心配ないという旨を口にしますが、異国の青年の曇りを伴ってしまった面差しは晴れません。
丁度その顔を拠点の意味を"活動の足場となる重要な地点"という意味を伴って、癖っ毛八重歯の秘書的な御仁が"戦略的な拠点"という意味合いで地図を眺めながら、良く使っていたのをシズクの記憶の掘り起こしが完了した所で、その曇った表情を目の当たりにしています。
そこで漸く偽名の青年が、平民の立場であるシズクでは思いつかぬ、またどうにも出来ない何かしらについてもまた、悩んでいる他の事があるのだと気が付きます。
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