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そういった事を含めた上で、今回の別れについても、普段なら溜息や呆れを伴いながらも、最後は苦笑いしながらも受け入れてくれるような偽名の青年が、彼らしからぬ渋りを見せているのだとも察しました。
時間があったなら、じっくりと考える事も出来たのでしょうが、それを知ったのが先日の下船した昼も過ぎた頃で、その後も迷子騒動などもあって、良い時間を過ごしたとはあの場にいた誰しもが思っているのですが、考える時間は消費しています。
けれどもシズクは昨夜に知ったのですが、異国の青年や女商人は、下船後に知っていたとしても、どうにも出来るレベルではない事でもあるのが、考えれば考える程判ってしまっていたのだと察しました。
だから南国を引き上げる際に同行していた3人でいられる最後のこの機会に、色々と思う所が出てきてしまっているのだと思い至ります。
―――ヒャッハー、もういい加減偽名を呼称するのも歯痒いけれど、異国の青年、取りあえず進まないとどうにもならない事もあるわ……まあ、私は商人だから具合はわからないけれども、商戦的には兎も角、戦略的?とでもいうのかしら動く時期ではないみたいのもあるかもしれないけれど、そうなの?。
業を煮やす、そんな慣用句を実感している様子で女商人が面白くなさそうに口にしましたが、武人の国の青年はそこに関しては即答で否定をしました。
―――いえ、俺達というか俺の立場からしたなら、やはり先ずは母国に戻って自分の責任で動ける力を持つべきなんでしょう、別に下手を取った行動はしていない筈です。
―――ヒャッハー、それなら、まあ、結果的には貴方がシズクと私を王都付近まで護衛して送る事が出来なくなったくらいで、大きな予定が変わったという事ではないのよね。
周囲に確認する様に言ってはいますが、そのうち半分は己自身に言い聞かせる様に女商人が口にしたなら、異国の青年は頷き、シズクを見つめます。
―――その、俺の事は興味と言うかその、気にかかったらこちらの商人殿にご連絡ください……えっと、別に、そのそれまでという事なんですが……。
育った環境もありますが、"筆忠"の傾向がある青年は少しばかり照れた様にそんな事を口にしていました。
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