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―――ヒャッハー、受け取る側は思い切り誤解できる物言いだったわよ。
口調はいつもの調子でありましたが、真顔で呆れるという反応をさせられている女商人は、口の端を片方だけグイと上げて、そんな言葉を返していました。
それから、これから偽名の青年が辿る事になる、昨日は3人で港町から馬車で移動した道に視線を向けます。
王都近辺程ではありませんが、簡易の整備がされていて、国が国道と定めたもので、早朝ではありますが既に荷馬車の類や、通勤や移動に使われる馬車も少ないながらも行きかっていました。
サブノックへの帰路に向かう偽名の青年と、それを見送る2人の婦人は、そんな行きかう馬車の邪魔にならない様に路の端で立ち話と言う状況でもあります。
どうやら、ここからそう離れてもいない場所に国が用意した迎えの馬車があるという事で、そんな話を聞いたなら、この物腰やわらかな青年が、異国の王侯貴族なのだという実感を伴いました。
―――もうセリサンセウムに入って、王都までそれなりの距離はあるけれども、最近は宰相のアングレカム・パドリック殿が国軍に施設部隊に指示を出して、平定後の国道の測量と整備を本格的に行っているだろうから、これからの道中は国の兵士が護衛している様なものよ、安全だと思うから安心しなさいな。
色々と備えもあり旅慣れていて、転んでもただは起きぬ根性の持ち主である商人の事は兎も角、行動力や信念はあったとしても、実質的には運よく生き延びたにすぎない様にしか思えない、年若い婦人を幾ら気遣っても、気遣いきれぬ、と言うのがこの偽名の青年の本音だと察している商人が念押しの様に、昨晩仕入れた情報を口にします。
すると、偽名の青年の方もそれは重々承知しているらしく、深く頷かれました。
―――はい、セリサンセウムの宰相殿は、きっとご自身の国王グロリオーサ・サンフラワー陛下の御世の為に、粉骨砕身する事を厭わない方からですから、それを邪魔する様な因子には、容赦のない事でしょう。
―――ヒャッハー、そんな風に言う位、異国の宰相殿を信頼をしているのなら、シズクの心配はいいから、とっとと"お坊ちゃん"を待っている場所まで行って差し上げなさいな。
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