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(早い話、このお坊ちゃんはセリサンセウムの事は信用はしていないけれども、悪魔の宰相は信頼しているって事なのよねぇ)
自国の宰相に対して別段隠しているわけでもないのですが、公にもしてない対抗心みたいなものを、相棒のファレノシプスの若当主と共に抱いている、女商人としては、少々複雑な心境で軽く皮肉る調子でそう言葉をかけました。
そして、どうやら女商人の様子から、自分が口にした言葉で些か心証を損なった事を察した異国の青年は、苦笑を浮かべることになります。
───商人殿、そんな顔しないでくださいよ……あ、でも一旦に別離だとしても、しんみりするよりは、少しばかりかしましいぐらいが、賑やかでいいですね。
───そうですね、それは私もそう思います。
偽名の青年からしたなら何気なく口にした言葉でしたが、シズクが大いに賛成という事を明るい笑顔で口にします。
ここで年若い乳母の、異国の青年への援護の言葉が入ったなら、女商人としても自分の性分的にも引くに引けない状態 となります。
───ヒャッハー、じゃあ、先ずはとっととサブノックに戻って、偽名のままでいいから、王都のファレノシプス家に、そちらの名産品でも"お世話になりました"という文でも添えて送って来なさいな!、そしたら筆不精の私も、シズクお姉さんもお手紙とセットにして、セリサンセウムの何かしらのお菓子贈るから、はい、"よーい、ドン!"。
不思議と異国間でも通じる"駆けっこ"の呼び掛けまで口にして、"早く行け!"という態度を示したなら、どうやら受けは良かったらしく、年若い乳母も異国の武人の青年も笑ってくれました。
そして、はっきりとした別れの言葉を誰も口にする事はなく、異国の青年は笑顔のまま、待ち合わせとなる場所に向かい始めます。
シズクとしては姿が見えなくなるまで、見送るつもりでしたが、"時は金なり、はい、シズクもよーい、ドン!"と、まるであやされるように言葉をかけられたなら、宿泊先の宿まで、軽く走らされることになりました。
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