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「はい、そうですね。え?ふはっ、いやそこは、、」
今日も夕方にかかってくる名乃屋からの電話。
記念品の製作も佳境に入っているようで、担当者の間でかなり密に連絡を取り合っている二人。
一応仕事の電話なのでいつも自分の席で会話をするので、会話の内容や吉野の反応が丸分かりだ。帰る時はいいのだが、残っていて残業となるとどうも気になってしかたがなくなる。
何で吉野が笑っているのか。どんな面白い話を名乃屋がしているのか。
そういえばこの頃吉野ときちんと話してないのではないか。
そんなことを吉野が電話をしているだけで思ってしまう。
「はい、はい、ではまた。はい、よろしくお願いします」
やっと終わったらしい。
吉野は何かをメモをしてこれから帰るようだ。
「お、おい吉野。もう帰るのか」
「はい。あ、何かありましたか?」
「いや、そうじゃなくてな、、、。あーっとこれから夕食食いにいかないか」
「いえ、悪いです。大丈夫です」
バッサリと切られてしまった、、。
なんかこいつを落とすって無理じゃないか?全っ然意識されてないんですが。
「俺が奢るから、な?」
「この前もこういうやり取りしましたよね。俺もう騙されません。」
じろりとこちらに睨みをきかせる。
そんなに拒絶されるとよけいに連れて行きたくなる。
「いいから、ほら行くぞ」
逃げられないように音を立ててパソコンを閉じ、がさがさと書類をまとめて鞄に突っ込み、吉野の左手を強引に掴んで、引っ張るように出口へと向かった。
視界の端に若尾がこちらを見ているような気がしたがそんなこと構ってられない。
吉野は小さい声で離して下さいなど、なにかを言っていたが聞く耳を持たずにそのまま会社を出る。
こんな所で離せという方がムリだ。俺はもうジジイだし、人生折り返しだ。
「ぶ、ちょお!離して下さい。ムリです!俺じゃなくて他当たって下さいよ!」
「だから、お前がいいっつってんだろうが!」
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