オタクが好きなものを喋る時のあれ

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やはり今回は言い逃れできなったらしい。吉野はシャツを下まで下げ、ワイシャツを胸元にたぐり寄せていく。顔もこれはやばいという顔をしている。 こうなったらもう正直に謝るしかない。 松下は吉野の上から退き、その横に正座をした。そして土下座をして 「吉野、、すまん!お前の先週の下着姿がどーーもっ忘れられなくてどうにか一回でもいいからまた拝めないかと思ってて、そしたら今日チャンスが巡ってきて、これは見るしかないだろうと思ってしまった」 ごめんなさい!ともう一回言うと、そのまま動かずに吉野の言葉を待つ。 「気に入りましたか、先週の」 衣擦れが聞こえ、ふぅと吉野のため息のような息が聞こえると、普段の淡々とした声が上からふってきた。 「許してくれるのか」 「許すも何もありません」 先週のは勿論気になっている。だから今日見ようとした。しかし、吉野は自分のしたことを咎めないらしい。こいつはやはりどこか抜けているのか? 頭を上げ吉野を見る。先程の音でもうスーツを直したようだ。変わっているのはネクタイを外している程度か。 吉野は前髪を横にかき上げて体育座りで手を前に組んだ。 「気に入ったのですか」 「ああ、また見たいくらいには」 「嬉しいです」 もう一回言う。大丈夫かこいつは。危機感がないのか?そんな嬉しそうに頬を緩ませて。 俺の罪悪感はどこにしまえば良いんだ。 「俺、好きな物を人と語れなくてずっと1人で楽しんできたので凄く嬉しいです。部長が気に入ったって言って下さって」 そういうことか。つまりこいつは、他人に自分の好きなことを紹介したり話出せなくて、誰でもいいから話し相手が欲しかったわけか。でも俺は気に入ったというより吉野が履いているところが気になったなんだよな。 でも今までに見たことないくらい顔が穏やかでこっちも嬉しくなってくる。こんなに親しくなったかんじは会ってから皆無だと思うから。
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