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オタクが好きなものを喋る時のあれ
金曜日。
あれから吉野との関係がギクシャクするのではないかと少しビクついていた月曜日が呆気なく終わり、先週した飲みに行くという約束を実行するときがきた。
この一週間の吉野はいつもと変わらない態度で松下と接していた。まぁ、あの事件以前もあまりお互い馴れ馴れしく喋っていなかったが。
月曜日に熱を出した部下から2人同時に謝られた後に約束を取り付けた。その時の吉野はあぁ、分かりました。と顔色を変えずに返事をしたので多分この前のことは大丈夫だったのだろう。
ひとまず、はぐらかされなかったことに安堵した。
「吉野、行くぞ」
今日は無事に定時に終わり、2人共社員達に挨拶をして会社を出た。外は暗く人工の光が煌めいている。
「どっか行きたいとこあるか?」
「いえ、部長が行きたいところで良いですよ」
「でも詫びだしな、」
「奢って下さるんでしょう?ならどこでも」
仕事のこと意外で2人だけで喋るのは初めてかもしれないと、松下は新鮮味を感じていた。
夜の秋風は少し冷たいが横の自分よりも少し低い頭をわざと歩くテンポを遅らせて見たりすると、ぎこちなさよりこれからが楽しみになってきた。
「じゃあ俺の行きつけな」
松下は駅を通り過ぎ、飲み屋が集まるところからは少し離れた店へと向かった。そこは旨いお酒とつまみで隠れ名店として近所に知られているところだ。
数年前にここら辺をそれとなく歩いていたときに松下が見つけ、それ以来あまり騒がしくなくどこか落ち着けるところだったので通うようになったのだ。
スーッと入り口の戸を開け予約の旨を定員に伝える。
こじんまりとした個室に通された。
「良い感じのところですね」
「気に入ってくれてよかったわ」
2人は向かい合わせで座り、松下はビールを吉野はピーチカクテルを選び、何点かつまみと料理を注文した。
「ピーチカクテルなんて可愛いの飲むんだな」
「俺、初めてビール飲んだとき一口目で吐き出しちゃって、ジュースっぽいのしか飲めないんです」
以外に吉野の舌は大人の味を受け付けないらしい。
「じゃあ営業で飲むときはどうしてたんだ?」
「そういう時はお酒弱すぎて蕁麻疹が出るといって断ってます」
吉野はふふっと緩やかに笑った。その顔がやっぱり綺麗顔だなと松下は見つめた。
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