君は、僕のヒーロー

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丘の一番上。 見事な枝ぶりの桜からひらひらと花弁が散る。 「久しぶり!サトシ」 見上げると花びらの隙間からキラキラした日差しが降ってくる。 彼が笑って応えているみたいだ。 彼の母がこだわりぬいて決めた場所だ。 そして桜の木。 海を臨むその美しい場所に、サトシは眠ってる。 紙袋から取り出したのは特撮雑誌だ。 表紙には、あいつが好きだったライダーをオマージュしたヒーローの写真。 付箋を貼ったところをめくって、桜の木にかざすと、その間に花びらが落ちた。 まるで指先でその写真をなぞっているかのように。 アキラは周囲を見回して人がいないことを確かめ、スマホを取り出し、画面をタップして曲を流した。 軽快でパワフルなその曲を歌うアーティストは20年以上前のライダーの主題歌を歌っていた人だ。 あの頃、カラオケで一緒にマイクを握ってシャウトした…お気に入りの曲の憧れの歌手に依頼したら、快諾してくれた。 「始まったよ、サトシ」 忙しくて、なかなかお参りに来られなくてごめん、と胸の中で唱えるように呟いた。 アキラがずっと温めていた構想のライダーが、ようやく日の目を見た。 あの頃のサークル仲間の一人が脚本に入ってくれて、すごく良いものができた、と思ってる。 反響も、視聴率も好調だ。 「俺が撮ってるんだ…カッコいいだろ?」 彼がなりたかったヒーロー。 子供たちに前を向いて生きていってほしい、そんな未来を見せたくて、今、アキラは監督として働いてる。 長い時間をかけてやっと実を結んだ、その作品は、彼との共作だ。 お前が望んだ未来だ。 想って、願って、断ち切られたそれを、俺が一緒に叶えた。 オーディションで選んだ主人公は、ちょっとお前に似てる。 笑うと愛嬌のある、いいやつだよ。 撮影で、画面を見てると俺、泣きそうになっちゃうんだ。 そこにお前がいるみたいで。 生き返らせることはできないけれど。 空の上にいる彼にそれを見せることはできる…うん、そう、思ってる。 だから、もうずっと前から決めていた。 ヒーローの名前は___「サトシ」。
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