0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
丘の一番上。
見事な枝ぶりの桜からひらひらと花弁が散る。
「久しぶり!サトシ」
見上げると花びらの隙間からキラキラした日差しが降ってくる。
彼が笑って応えているみたいだ。
彼の母がこだわりぬいて決めた場所だ。
そして桜の木。
海を臨むその美しい場所に、サトシは眠ってる。
紙袋から取り出したのは特撮雑誌だ。
表紙には、あいつが好きだったライダーをオマージュしたヒーローの写真。
付箋を貼ったところをめくって、桜の木にかざすと、その間に花びらが落ちた。
まるで指先でその写真をなぞっているかのように。
アキラは周囲を見回して人がいないことを確かめ、スマホを取り出し、画面をタップして曲を流した。
軽快でパワフルなその曲を歌うアーティストは20年以上前のライダーの主題歌を歌っていた人だ。
あの頃、カラオケで一緒にマイクを握ってシャウトした…お気に入りの曲の憧れの歌手に依頼したら、快諾してくれた。
「始まったよ、サトシ」
忙しくて、なかなかお参りに来られなくてごめん、と胸の中で唱えるように呟いた。
アキラがずっと温めていた構想のライダーが、ようやく日の目を見た。
あの頃のサークル仲間の一人が脚本に入ってくれて、すごく良いものができた、と思ってる。
反響も、視聴率も好調だ。
「俺が撮ってるんだ…カッコいいだろ?」
彼がなりたかったヒーロー。
子供たちに前を向いて生きていってほしい、そんな未来を見せたくて、今、アキラは監督として働いてる。
長い時間をかけてやっと実を結んだ、その作品は、彼との共作だ。
お前が望んだ未来だ。
想って、願って、断ち切られたそれを、俺が一緒に叶えた。
オーディションで選んだ主人公は、ちょっとお前に似てる。
笑うと愛嬌のある、いいやつだよ。
撮影で、画面を見てると俺、泣きそうになっちゃうんだ。
そこにお前がいるみたいで。
生き返らせることはできないけれど。
空の上にいる彼にそれを見せることはできる…うん、そう、思ってる。
だから、もうずっと前から決めていた。
ヒーローの名前は___「サトシ」。
最初のコメントを投稿しよう!