親友

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「ごめん、今日はダメなんだ」 LINEの返事はそっけなかった。 いつも突然訪ねていっても、どんなに部屋が汚くても断られたことは無かったのに。 どうも様子がおかしい。 そういえば、いつも出ているはずの授業でも見かけなかった。 アキラは、ふうむ、と鼻を鳴らすように息を吐いてスマホの画面をみつめた。 明日は早朝から都内でバイト。 派遣会社の単発の仕事は時給は良いけど徹夜だったり早朝だったり、郊外にある自宅からだとギリギリとか間に合わないというものも多い。 そんな時、バイト先との中間地点にある大学の周辺に住んでいる友達の部屋に泊めてもらうというパターンが恒常化していた。 サトシは地方から出てきた友達だった。 同じ学科でも特に趣味が合うやつで、こんなバイトの時でなくても、窓から学校が見える距離の彼の部屋で徹夜でDVDを見て笑い転げたり、アキラが持ち込んだビールを飲んでそのまま寝落ちして、翌朝はっと目覚めて教室までダッシュしたり。 他のサークルの友達ともわいわい楽しくやってきた、でもちょっと特別、うん、そうだ…サトシは「親友」ともいうべき存在、そんなやつだった。 いつもの調子で彼に「明日また早朝バイトなんだけど、泊めてくれ~」と入れたLINEに、しばらくして返事があった。 「ごめん、今日はダメなんだ」 ダメだ、というならだめなんだろう。 一瞬、さらりと受け流して(じゃあ、誰か他に頼めるやつ…)と思ったところで、何かが引っかかった。 あんまり頻繁に押しかけて、俺、迷惑かけたかなぁ…? 泊めてもらう時には差し入れを必ず持って行った。 荒れ放題のところを見かねて掃除した。 トイレやバスルームを磨いたこともある。 「助かるよ、オレ、掃除って苦手でさぁ…」 そういうサトシは冷蔵庫のもやしやキュウリを放置したあげく液体に変えてしまうほどの家事音痴で、それは親が何もそういうことをさせないままに18年間純粋培養した結果らしい、と割と早い段階で知った。 家を出るまで掃除も洗濯も何もできていなかったから、一人暮らしを始めて途方に暮れた、と彼は言っていた。 実家住まいの自分が小さい頃から共働きの母親に家事をガンガン仕込まれていたのとは対照的だなと思い、遊びに行くたびに掃除の仕方を教え、ゴミを分別し、それで泊めてもらう恩を相殺している、そんな関係だった___と思っていた。
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