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薄闇の中で赤い光が回る。
尋常でない空気の中、集まってきた学生らがロープの向こう側に群れて、その殆どの手にスマホが握られているのを、ぼんやりとアキラは見ていた。
パトカーの後部座席はしんと冷えて、ぶるりと体が震えた。
寒い。
頭の芯が氷のようだった。
絶叫した自分の声が耳に残る。
誰かが呼んだらしい制服警官にゆさぶられ、ぱちんと頬を叩かれた。
「ドアの中」とだけ言葉を絞り出した。
がん、とドアに当てた拳に血が滲んでいた。
気付いたら、ここにいた。
救急車が隣をすり抜けるように走っていった。
あの中に、サトシがいるのかな…と思い、脳裏に焼き付いたあの手の蝋のような白さに吐き気がして「うぐ…」と声が漏れ、慌てて掌で口元を覆う。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
ダウンの袖でぐいと顔をぬぐうと、ドアが開いた。
「もし大丈夫なら、ちょっと話聞きたいんだけど」
黒いダウンを着て首から身分証を下げた刑事が車のドアフレームの内側に頭を突っ込むようにしてアキラの顔を覗いた。
「ええと、満留アキラくん、北村サトシくんの、同級生…でいいのかな?」
「…ともだち、です」
「うん、なんで今日ここに来たの?」
神倉と名乗った刑事に、アキラは二時間前からの流れと、サトシとの付き合いの始まりからを行きつ戻りつして話した。
そのうちに学校から担当教官の藤森と、顔だけは知ってる事務長、ゼミの助教らがかけつけてきたのが見えた。
その後ろには、学食にいた仲間も揃っていた。
まさか。
こんなことになるなんて。
こんなことになっていたなんて。
あそこでしゃべっていた時には想像もしていなかった。
死んでた。
サトシが。
俺の、大切な、ともだちが、冷たくなってた___傷だらけの古いフローリングの部屋で。
今日も当たり前にバカ話が出来ると思ってた。
今年のライダーがちょっと面白くなってきたので、久しぶりに特撮雑誌買っちゃった、って見せてやりたくてリュックの中に入れてきたんだ。
サトシはライダーが好きだったから。
でも戦隊の最終回も熱い展開だったよな、ってそんな話もしてた。
そうか。
それが最後の会話になっちゃったんだ。
視界が回った。
おれは後部座席の足元に顔を突っ込むようにして倒れたらしい。
白い天井のカーテンに囲まれたベッドで目が覚めたら___全部が終わってた。
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