0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
サトシは“跡取り”だから、卒業したら必ず家に戻るという約束で、大学の間だけを自由に過ごさせてもらう、ということになっていたのだと聞いたのは、事件の直後の警察署にかけつけた両親たちとのやり取りでのことだ。
芸術系の学校で、いろんな事情があるやつが集まっていたけど、いずれ番組制作の勉強がしたくて、アキラは必死で勉強してそこにギリギリ合格したのに、サトシは推薦で合格したのだと言っていた。
なぜ、そんな彼があんなことになったのか。
それは、本人の全く預かり知らないところからの“とばっちり”だとしか言いようがなかった。
「サトシはねぇ、ヒーローになりたかったんよ」
サトシの母が見せてくれた彼の部屋は、書籍やDVD、ベルトやフィギュアがきれいに棚に並べられており、圧倒されたアキラは、サトシの特撮の知識と造詣の深さに納得した。
昭和の古い時代のものまで揃っていて、数年寝ずに見続けても制覇できるかどうか、と思うほどのコレクションを眺めているうちに、しらず、アキラは泣いていた。
しゃくりあげる自分の喉の音に驚くと、サトシの母が白いハンカチをよこしてくれた。
サトシは、実家と対立する組織との勢力争いのとばっちりで殺された。
跡取りを失えば、その体制が崩れる、その機に乗じていろいろと仕掛けようとしたらしい。
アキラがドアを叩いた二日前の深夜にはこと切れていたサトシ。
犯人は北海道に逃げた。
サトシのスマホを持ったままで。
…反吐が出るのはその犯人の行状だ。
発覚を遅らせるために、スマホを持って逃げた。
ロック解除は指紋認証だ。
そのために、サトシの指を切って持ち去った。
あの床の血だまりはそのせいだった、とあとで聞いた。
動揺してスマホの位置情報を切り忘れていたことから発覚したその居場所で、犯人は逮捕された。
自分らと同い年の男だった。
貧しい家庭に生まれて、対立する組織に拾われて、わずかばかりの報酬のためにこの仕事を引き受けたのだと言っていた。
二十歳を過ぎていたから名前も聞いた。
今すぐ殴りに行きたい、同じことをしてやりたい、と思った。
拳を握り締めるとあの時の傷がうずいた。
そいつの顔写真を見た時に思った。
まだらになった金髪、薄汚れたスウェットにあったシミは、サトシの血だったんだろう。
ああ。
こいつだって、小さい頃にはヒーローに憧れる男の子だったろうに。
最初のコメントを投稿しよう!