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喫茶店マダム・ストロベリー。 来店を告げるベルがけたたましく鳴り響いた。 ジャズが流れる、穏やかな空気が乱暴にかき回される。ばたばたと足音を響かせて飛び込んで来たのはひとりの長身の男だった。 鬣のような金髪。薄い眉と鋭い目つきをした、息を切らした男と目が合う。 「よう。ちょうど良かった」 ハルの保護者の草薙さんだった。 奥のソファ席で梶さんを待っている俺たちのところへ、大股でやってくる。切羽詰まったような渋面で、ときおり入り口のほうを伺いながら、モスグリーンのモッズコートを脱ぎながら、 「ちょっと邪魔するぜ」 そう言うと、下に着ているパーカーのフードをすっぽりとかぶり、俺たちの対面の席に滑り込んだ。そしてそのままテーブルに突っ伏した。 俺と明石が何事かと顔を見合わせるより早く、入り口のベルが砕けんばかりに鳴り響く。 もはや異常を告げるサイレンだった。本能的に警戒心と焦燥感が掻き立てられる。     
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