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そう、ミステリー作家として。
その布石として、一階の暖炉のマントルピースには盗聴器が仕掛けてある。
もと夫の柴田幹彦、旧友の原静江、恋人の佐伯憲太郎、家政婦の遠山かな、そして隠し子の一条芙由子。
かれらはみな、動転するだろう。きっとここにいる誰かに氏家達子が殺されたと思い込み、犯人さがしをするはずだ。
毒はチョコレートだと思いこむ。
だが、ちがう。
達子は自分の体が麻痺状態になったとき、口の中に甘くねばつく菓子がいつまでもこびりつくことを想像するだけで、不愉快だった。
だから、毒はほんの少し、自分の爪に塗ったのだ。
チョコレートをつまんだふりをし、爪をなめるだけでいい。
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