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その中で、氏家達子がもっとも好むチョコレートがピラミッドを模した形に飾り付けてあったのだ。
達子は右腕を振り回した。アクセサリーで飾られた手首がチョコレートのピラミッドにぶつかる。ダイス型のチョコレートがばらばらになり、床にぶちまけられた。
「達子さん。しっかりするんだッ」
昏倒した彼女にまっさきに駆け寄ったのは、年下の恋人である佐伯憲太郎だった。
カメラマンとしてこのパーティを取材しにきた一条芙由子は、とっさにシャッターを切る。
「おい、こんなときに撮影なんかするなよ」
達子の体をかばってしゃがみこんだ佐伯が、一条芙由子をにらんだ。
すでに達子は息をしていなかった。その表情は苦悶の余韻をきざんだままだった。
佐伯は達子の肩をゆさぶり、うなじに手をあてて脈をさがしたが、反応はない。
「どういうこと? さっきまで楽しくおしゃべりしていたじゃないの」
原静江がつぶやいた。
横殴りの雨が窓をたたく音を聞きながら、一同はぼうぜんと氏家達子の遺体を見下ろした。
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