二 雷鳴

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「なんだと、この野郎」 「ちょっと、やめてください」  一条芙由子が大声を出した。 「人が死んだんですよッ」  そのとき、再び落雷があった。  雷鳴がガラス窓を震わせる。山荘の前庭に枝を広げていたケヤキの木が、雷光をあびて白く浮き上がる。  山荘の中では、みなしゃがみこんで頭をおさえていた。  照明がフッと落ちた。  唐突に訪れた闇に、客たちはどよめきの声をあげた。  暖炉の炎だけが、赤々と燃え盛っている。  遠山かなが、ロウソクと懐中電灯を持ってきた。  ロウソクに暖炉の火が移され、テーブルに置かれた。 「おれ、達子さんを二階へ運んでくる……」  雷鳴と停電に毒気を抜かれた佐伯が、暖炉の明かりをたよりに達子の遺体に腕を回した。  柴田は懐中電灯を手に取ると、達子を横抱きにした佐伯がのぼってゆく階段を照らして歩行を助けた。たったいま反目しあった男たちだったが、事態の深刻さが胸にせまったのである。
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