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一 山荘にて
山荘の窓のむこうで二度目の落雷があったあと、雨が激しくなった。
雨音がガラスを叩く音を引き裂いて、氏家達子がうめき声をあげる。
客たちはいっせいに、ダイニングテーブルのそばに立っていた達子へ視線をむける。
たった今まで場の空気をつかんでいたのは、バレンタイン・パーティの座興にと、トランペットの独奏を披露していた柴田幹彦だった。
幹彦が楽器から口をはなすのと、達子が苦悶にのどをかきむしり、半身を屈伸させ、獣じみたうめき声をあげるのが同時だった。
「達子、どうしたのよ」
氏家達子のモデル時代からの旧友、原静江がワイングラスを持ったまま、一歩近づいた。
「奥さま、いったい……?」
キッチンから物音を聞きつけ、家政婦の遠山かながあわてた足取りで駆けつける。
テーブルの上にはすでに、ローストビーフや果物を盛り付けた銀の皿や、サンドイッチ、キャビアなどが所狭しとおかれていた。
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