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五 転身
山荘の一階で客たち全員がそういった会話をしているあいだ、氏家達子は二階のベッドに横たわっていた。
彼女は死んではいなかった。
冷え切った寝室だったが、自力で毛布を取ってくることはできなかった。
まだ麻痺が残っていて、指先すら動かせない。
仮死状態なのである。
一時は本当に、苦しかった。筋肉が麻痺し、呼吸ができない危険な状態だった。
そんなリスクがあっても毒を用いたのは、意識を残したまま「死体」の演技をする自信はなかったからだ。
フグ毒を手に入れるのは、案外に簡単だった。漁協に知り合いがおり、フグをわけてもらったのだ。
内臓にあるテトロドトキシンは猛毒だというので、最初は金魚でためし、次に猫でためした。自分の体重であれば、どれほどの量で仮死状態になるのかを、計算したのだ。
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