二 雷鳴

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二 雷鳴

 山荘には備え付けの電話はない。  スマートフォンで救急車を呼ぼうとしたが、先刻の落雷のためか、電波が悪く圏外表示が出るばかりだった。 「氏家先生を二階のベッドルームに運んであげてください」  一条芙由子が二人の男たちに言った。  一人は氏家達子のもと夫で、トランペット奏者の柴田幹彦。もう一人は氏家達子と同居している青年、佐伯憲太郎である。  柴田は提案した。 「きみは若いんだ。一人で達子を抱いて二階へあがれよ。いつもそういう奉仕をしてきたんだろ?」  嘲笑がまじった声だった。佐伯は激しく反応した。 「ばかにしてんのか、おっさん。初対面だが、あんたのことは知っているぜ。ラッパ吹きしか能がねえんで、もと女房の達子に借金しまくってるって」 「先刻、挨拶したときとは打って変わって下品な口をきくもんだな。それが地か? 俳優志望だったな? きみが氏家達子に近づいたのは、後押ししてもらおうって魂胆だったんだろ? 一目でお見通しだ」
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