1 懸想

1/6
前へ
/165ページ
次へ

1 懸想

 初夏。  放課後の放送室は十数人の放送部員が、大会に向けて朗読やアナウンスの練習をしていた。  小さなスタジオで顧問の南方と朗読の練習をしていた大我(たいが)は、電源の入ったマイクを前にして淡白な表情で南方に告げた。 「みなちゃん、俺と付き合って」  白石(しらいし)大我は不真面目な生徒であった。  肩まで伸びた黒髪を外ハネにセットして、制服のブレザーはその日の気分で着崩す。  幼さを残した精悍な顔立ちで、愛想も良く女性受けしたが、自分の意思が最優先で度々トラブルを起こしていた。  授業中も早く終わらないかと願うばかりで集中しない。  ただ、教師に対しても愛想が良く成績も最悪な状況は免れていたので、問題児として扱われることはなかった。  大我は勉学に関しては乗り気ではないように見えながら、学校へは嬉々として登校していた。  高校二年、社会科の選択授業。  スマートフォンのソーシャルゲームで戦国武将を好んで使っていた、という理由だけで大我は日本史を選んだ。  授業を真面目に受ける気などなかったのだが、担当の教師が面白い人間だった。  南方圭紀(みなかたけいき)という男。     
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加