六章

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──このまま関係が終わるならそれでいいと、何も関わりを持たずに日数だけが過ぎ去った。 けれどその日退社しようとして、目の前を歩く彼の背中を見つけたら、 どうしようもなく切羽詰まった思いが喉元をせり上がって、 気がつくと、その身体を押し込むようにもして、無理やりにタクシーに乗せていた。 「……な、何だ、いきなり…」 僅かにうわずる声に、 「……あなたの家に、行ってくれませんか」 と、返した。 「俺の家に……?」 聞き返されて頷き、 「運転手に、行き先を告げてください」 と、促した。 「あ…ああ、わかった……」 動揺を隠し切れない様子で場所を伝えて、 「……各務、急になんだ……」 と、顔を向けた。
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