4 花火

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4 花火

 多分、僕はミサキさんのことが好きだった。性欲のすり替えなどではなく、恥ずかしい言い方だったが、ミサキさんに恋をしていた。 惹かれていた。  同じ男、同性なのに。とか、会って未だ一週間しか経っていないのに。とか、ミサキさんが普段、何処に住んでいて何をしているか、何もかも知らないクセに。そう思うのに、ミサキさんのことを考えるのを止められなかった。  それでも僕は往生際が悪く、もしかするとミサキさんが色いろとフシギな人だから、それに興味を持っただけ、つまり単なる好奇心なのではないか?と考えてもみた。  ミサキさんがたった一言で、男共を引き下がらせたその日の夜、僕は確かめてみることにした。 何のことはない。ミサキさんのことをオカズに出来るかどうかを試してみた。  ミサキさんの手を思い出す。ソラヨミをしていた時に、額へとかざしていた大きく骨張った手。 メープルシロップが染み込んだケーキを掴んで食べていた手。  爪は長い指にふさわしく、きれいな楕円形をしていた。平たい形の僕にはカッコよく見え思えて、羨ましかった。 あの手で指で触られたら、きっと・・・  僕はドアに背を向けて横向きに寝ていたのだが、不意に、 「樹・・・」 「!?」 後ろからささやかれて、思わず振り返った。 ミサキさん!?と言い掛けた僕の口は、おそらくはミサキさんので塞がれた。スルリと忍び込んできた舌は、僕の口の中だけではなく、色いろと考えていた僕の頭の中までをもグチャグチャにかき回した。  僕は確信した。この間、僕に触れてきたのもミサキさんに間違いないと。 僕は声にはならない声で叫んだ。 「ミサキさんなんですよね!?お願いです!答えてください!」  僕の必死の思いが伝わったのか、ミサキさんは口付けを終えて言った。 「・・・樹はおれのこと、怖くはないの?」  昼間の、穏やかで平らかなミサキさんの声ではなかった。 疑り、探る様なひどく揺れた声だった。 「怖くは、ないです。ミサキさんだって分かれば・・・」  けして真っ暗にはならない部屋で、ミサキさんが笑ったのが僕には見えた。 ミサキさんに言ったことは本当だった。今夜もいつものようにちゃんと鍵を掛けておいたのだが、ミサキさんがここにこうして居ることは不思議であっても、怖くはなかった。  だからもう一度ハッキリと、 「ミサキさんなら、怖くない」
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