2 - lost

3/5
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
 甘い睡魔が見せた悪夢を振り切り目を覚ますと、今度は人工的な青が視界を覆う。  寒色であり涼しい気持ちを抱かせるはずのその色が、リオには何故かとても暑く見えた。  辺りから蝉の声が聞こえるが姿は見えず、自身がその青いものに囲まれていると察する。よくよく見ると皺や汚れの見えるそれは、どこにでもあるであろうブルーシートだった。  「…」  肌に熱気と湿気がまとわりつく感覚で汗をかいていると認識し、次いで首をまわして辺りを探る。  シートの端には段ボールが敷かれ、そこに自分が横たわっている。丁寧にも頭はたたまれたタオルの上にのせられていて、すぐ脇には水の入った紙コップが置かれていた。  足元を見遣ると背中をまるめた人影があり、タイミングが良くリオと目が合った。  「おう、起きたか兄ちゃん」  人影は中高年の枯れた声で話しかけ、丸めていた猫背を少し伸ばして立ち上がる。天井にあたるブルーシートが低いのか、中腰で段ボールの床を踏んで歩いて来ると、近すぎない距離にあるパイプ椅子に座り込んだ。  「ここにゃ風呂も何もないからなあ。悪いが汗は外の水場か銭湯でも行って流すしかねんだな」  椅子に座った小柄な男は枯れた声に似合わず若かったが、それでもリオの二回りは年上に見える。さしずめ四十代後半と読める男は汚れの目立つランニングシャツに作業着のズボンを穿き、浅黒い肌は不潔さをも感じさせる。薄くなりはじめた髪と顔の皺は、彼が歩んできた人生の苦労から生まれたものだろう。  リオはしかめ面で上体を起こし、脇に座るその男の方に向き直る。  「まあ暑さで水分抜けて干からびてんだろ。とりあえず水でも飲んでゆっくりすりゃあいい」  そう言って左脇のテーブルに置かれたビニールから紙コップを取り出すと、アウトドア用の貯水タンクを捻り水を汲んだ。七分目まで水を貯めたコップをリオの前に差し出し、リオは躊躇いながらそれを受け取る。  「別に何もやばいもん入ってないから飲め飲め」  コップの中の水を怪訝そうに見つめるリオを見て、男は一言添える。それに安心したわけではなかったが、リオは言われるまま水に口をつけた。冷えた水は上昇した体温を下げ、暑さでぼんやりしていた意識を現実に結び付ける。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!