2 - lost

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 手招く睡魔に引き摺り下ろされ、輪郭のはっきりしないおぼろげな夢を見る。  ―それはリオの幼い頃の記憶だった。  真夜中、急いで且つ静かに家を出た親子三人。  必要な荷物だけを詰め込んだ鞄は膨れ、歩く邪魔をする。  それでも一刻も早く逃げるため、家族は一路夜行列車を目指して歩き続けた。  緊迫した表情で駅を目指して歩く母の表情が、幼心にどこか不安を抱かせる。  前を歩く父の背中は、高所で命綱もなく綱渡りをするような怖さを孕んでいた。  その様は針を突き付けられた風船さながらに危うく、ほんの少しの衝撃で崩壊してしまいそうな危機感に幼いリオはひたすら耐えつづけた。  大きな発砲音に共鳴して、抱いていた危機感は最悪の形で具現化する。  目の前を歩いていた父から何かが噴き出し、次いで母の悲鳴がこだまする。  弾かれたように母はリオの手をひいて駅へと走り出し、あと数歩で届くところで父と同じように生温かい何かが噴き出す。  噴き出したそれは顔に降りかかり、パニックは一瞬にして思考を奪う。  刹那黒く蠢く人影が視界の隅に見え、リオは全てを悟ったと同時に暗闇に意識を落としていった。
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