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4 - cave
同日の午後。
外の光が入り、且つ、かろうじて雨宿りができる程度の深さまで洞窟に入り込んだ暁は、途方に暮れた様子で空を見上げていた。
淀んだ空は時折光り、唸りを地に響かせて不安を煽る。雷が怖いという歳ではないが、度重なる不運と恐怖体験に不安を抱かずにはいられなかった。
既に鈴の音は絶え、背後の闇は暁を引きずり込もうとしているかのように黒さを増す。
「(早く止まないかな…)」
激しい雨音と雷が止む気配はない。
洞窟の湛える闇を見るまいと大きな溜息をついて俯くと同時、雷の閃光が瞼を突き抜けた。
間を置かず鳴った轟音と、コツンという靴音を聞いたのはほぼ同時だった。
「(誰か来た…!?)」
その異音に思わず顔を上げると、確かに入り口に人が立っていた。
洞窟に入ってきたその男はフードを目深に被り、静かに暁を見下ろしている。
「龍……」
この土地と、暁自身の不安が生み出した錯覚だろう。
暁は思わず、慕っていた青年の名を呼びそうになって口を噤んだ。
「悪いが人違いだ」
男は一瞬怪訝そうに眉を顰めた後、暁が呼んだ名を否定してフードを脱いだ。
「え、あれ?」
二、三度瞬きをし、もう一度男の顔を見る。
フードの下から見えた眼はあの青年にとてもよく似ていた気がするのに、今見ている顔は完全に別人だ。
しかし彫りの深いその顔に暁は見覚えがあった。
「…あ」
同じような雷雨の中、正面からぶつかった時の記憶が頭を掠める。
そして、今と同じように青年の名を呼んだ事も。
「あの時俺がぶつかった人」
「よく覚えているな」
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