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1 - awake
格子の張られた窓は高く、差し込む陽射しはぼんやりとした光となって降り注ぐ。
春の陽射しのような軟らかさとは裏腹に部屋の中は肌寒く、熱を帯びた体に程よい眠気を誘う。
「―…」
甘い眠気から意識を引き剥がし、男は横たわったまま首を動かして辺りを探る。
部屋の中は男が横たわるベッド以外には何もない。白い壁とドアがあり、天井の近くに小さく明かり取りの窓が取り付けられている。窓ガラスを挟むように白く塗られた鉄格子が影を作り、薄暗い部屋の中に落ちている。
ベッドの隣に人が一人ようやく立てるくらいの狭い空間であると認識し、男は自分の状態把握に思考を巡らせる。男は自力でこの場所にやってきた覚えも、部屋にも見覚えはなかった。
体を起こそうと腕を動かし、何かに遮られ身動きが出来ないと気付く。腕は頭の上に高々と上げられ、手首の辺りに冷たく冷えた金属質の感触がある。それは足にも同じ感触があり、四肢を鎖か何かで縛られているのだと認識した。熱ではっきりしていない意識の中、男は小さく舌打ちをする。
(―…感覚を思い出せ)
「…?」
ようやく聞き取れるくらいの小さな声が頭を小突き、微かに緊張が走る。
(―感覚を思い出せ。そうすればこいつを渡せる)
辺りに人の気配はなく、男はどこを見るわけでもなく目を凝らす。
かすれた声は聴覚に訴えるように繰り返す。
四肢を拘束されたまま、男は辺りを見回して声の主を視覚に捉えようとするが、影はおろか手がかり一つ見つからない。
「…何の事だ」
五感で探す事を諦め、男は小声で尋ねる。
(銃を握る感覚だ。それさえ思い出せればそこから脱出できる)
部屋の外から聞こえる雑音より小さく、それでいて不思議と聴覚にはっきりと訴える声に焦りの色が混じる。それに連動するように、白いドアの外から洩れてくる雑音が強まり、沈んでいた男の心にざわめきをもたらす。
「―銃を持つ手を作ればいいんだな?」
雑音に掻き消されそうな程の小さな声で、男はもう一度尋ねた。
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