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少女の髪が冷たい風に揺らされる。
買ったばかりのパンをかじる少女を追いながら、少年は風に負けないくらいの声を出した。
B「なあ、待ち合わせはこっちじゃないだろ」
A「いいのよ、あんなの。貴方と一緒に街を歩く方が楽しいもの!」
きらきらと目を輝かせる少女に笑顔を向けられ、うっ、と言葉に詰まる少年。でも、と漏らしかけた言葉は引っ込んた。
少女のことを好ましく思っているという点では、彼も、少女の待ち合わせ相手も同じだ。しかし少年は知っている。彼女は好意を寄せれば寄せるほど離れていってしまうと。
異性に好かれることが怖い。そう打ち明けた少女の顔を、彼は忘れてはいない。
B「……ずるい、よな」
だから、風に消されることを期待して呟いた。なのにこの時ばかりは都合良く風が吹いてくれることはなく。
少女はくるりと振り返り、楽しげな視線を彼に向けた。
A「ええ、ずるいわよ!」
真意の読めない言葉に、少年は目を丸くする。くすくす笑った少女は、また足を進めだした。
A「だって今更、好きなんて言えないじゃない」
B「へっ……」
なんでもないことのように届けられた言葉。悪戯な風も空気を読んだのかまったく吹かない。おかげで、少年の耳にしっかり渡された。
ぽかんとしている彼に見向きもせず、少女は手元のパンに夢中になる。
時が動き出したかのように風が吹く。ふわりと揺らされた少女の髪が露わにしたのは、赤くなった耳だった。
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