(十二)

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「社長、お流れを頂きにきました」 服部、竹田、そして山田の三人が、武蔵の元にやってきた。 「おお、ご苦労だったな。三人共、良く頑張ってくれた。これからも、加藤専務を助けてやってくれよ」 「勿論です! 専務同様、我々も、社長に惚れ込んでいますから」 「社長の社員思いには、感激しました。みんな、喜んでます」 「中々できませんよ、実際。社長と言えば、どこも威張り散らすだけですから」 「おい、おい。これ以上は、何も出んぞ。それより、お前らも早く繰り出せ。ほれっ、あそこで待ってるじゃないか。それとも気に入った芸者が居たら、番頭に話を付けてやるぞ。専務に頼め、頼め」 上機嫌で、武蔵は三人に盃を渡した。 「社長~!私たちにも、お流れぇ~!」 三人が立ち上がると同時に、女性社員がどっと押し寄せた。 「分かってるんだから。社長が言い出しっぺでしょ、旅行は」 「そうよ、そうよ。渋ちんの専務が、言い出すわけないもん!」 「社長! いい加減に、所帯を持ってくださいな。なんだったら、私はどう?」 「いゃだあ! あんたなんか、だめよ」 「そうよ、そうよ」  一気にかまびすくなった座で、武蔵はただ苦笑いをするだけだった。 「そうです、社長。もういい加減に、身を固めてくださいよ。あの時の娘なんか、社長にピッタリなんですがねえ」 我が意を得たり!とばかりに、五平が言った。途端に、 「えぇ! 誰、誰、それ。専務、どこの娘さんなの?」と、一斉に声が上がった。 「専務! どこの誰とも分からん、娘だろうが」 「どういうことなの、専務。そんな素性の分からない女は、だめよ」 「そうよ。そうだわ! 山本富士子なんか、いいんじゃない?」 「そうねえ。社長みたいな色男には、あの位じゃなきゃねえ」  酔いの回った女性達の口撃に、武蔵はたじたじとなった。 「分かった、分かった。口説いてみるさ、今度。さあ、料理が残ってるぞ。全部、平らげて来い。これは、社長命令だ」 「はぁ~い」
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