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「社長、お流れを頂きにきました」
服部、竹田、そして山田の三人が、武蔵の元にやってきた。
「おお、ご苦労だったな。三人共、良く頑張ってくれた。これからも、加藤専務を助けてやってくれよ」
「勿論です! 専務同様、我々も、社長に惚れ込んでいますから」
「社長の社員思いには、感激しました。みんな、喜んでます」
「中々できませんよ、実際。社長と言えば、どこも威張り散らすだけですから」
「おい、おい。これ以上は、何も出んぞ。それより、お前らも早く繰り出せ。ほれっ、あそこで待ってるじゃないか。それとも気に入った芸者が居たら、番頭に話を付けてやるぞ。専務に頼め、頼め」
上機嫌で、武蔵は三人に盃を渡した。
「社長~!私たちにも、お流れぇ~!」
三人が立ち上がると同時に、女性社員がどっと押し寄せた。
「分かってるんだから。社長が言い出しっぺでしょ、旅行は」
「そうよ、そうよ。渋ちんの専務が、言い出すわけないもん!」
「社長! いい加減に、所帯を持ってくださいな。なんだったら、私はどう?」
「いゃだあ! あんたなんか、だめよ」
「そうよ、そうよ」
一気にかまびすくなった座で、武蔵はただ苦笑いをするだけだった。
「そうです、社長。もういい加減に、身を固めてくださいよ。あの時の娘なんか、社長にピッタリなんですがねえ」
我が意を得たり!とばかりに、五平が言った。途端に、
「えぇ! 誰、誰、それ。専務、どこの娘さんなの?」と、一斉に声が上がった。
「専務! どこの誰とも分からん、娘だろうが」
「どういうことなの、専務。そんな素性の分からない女は、だめよ」
「そうよ。そうだわ! 山本富士子なんか、いいんじゃない?」
「そうねえ。社長みたいな色男には、あの位じゃなきゃねえ」
酔いの回った女性達の口撃に、武蔵はたじたじとなった。
「分かった、分かった。口説いてみるさ、今度。さあ、料理が残ってるぞ。全部、平らげて来い。これは、社長命令だ」
「はぁ~い」
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