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朝方近くまで痛飲した武蔵は、酔いつぶれてしまった五平を残して、そろそろ明るくなり始めた外に出てみた。一面に敷かれた芝生が、素足で歩く武蔵に心地よく感じられる。海からの風も、心地よい。眼前に広がる海原を、感慨深げに見つめた。
“俺も、ここまで昇りついたんだなあ。苗字のせいで、やれ厠だ、臭いだの、と毛嫌いされたもんだが。蔑まされ続けたが、何くそ! と発奮してきたんだ。運にも恵まれたが、スレスレの事もやった。潰した同業も、数多あったな。テキヤ相手に啖呵も切ったし、暴力団と渡り合った事もある。そう言えば、首を縊った奴もいた。すぐにどうこうと言うことはなかったが、支払いが滞り始めたからな。しかしあの男も、納得ずくだったんだ”
「社長! どう、ここらで楽になんない? うまく立ち回ろうよ。酷な言い方だけど、早晩行き詰まるよ、お宅は。いや、分かってるって。頑張ってきた、ホントに。頭が下がる、ホントにね。でもね、これ以上粘ってみてもさ、良い目は出ない。ジリ貧だ、もう。そこでだ、こっちもね、苦しいのよ。だからさ、お互い良い思いをしょうよ。いい考えがあるの。うちの商品を買ってよ。で、富士商会がそっちの商品を買うわけ。相殺って、形ね。
いやいや、表向きだよ。実際には、現金で払うから。分かる? 二割でどう? 勿論、帳簿には載せない。それでね、バンザイしちゃうの。夜逃げしたって、良いじゃない。どう、この話に乗るかい? よし決まった! あそこの角に、若い者を待たせてるから。商品を、貰ってくよ。下代で、二百萬円分はあるかな? でさ、ここに今、五萬円あるんだ。取りあえず、これだけ払うよ。残金は、後で払うからさ」
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