(十三)

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 感慨に耽る武蔵の元に、旅館の女将が声をかけて来た。 「お早いですねえ、社長さま。おはようございます。如何ですか? ここからの眺望は。当旅館の、自慢の一つなのですが」  武蔵が振り返ると、斜め後ろに楚々とした風情で立っていた。和服には疎い武蔵だが、見るからに高級そうな着物姿だった。年の頃は、三十路も半ば過ぎか? 妖艶さを漂わせている。思わず見とれてしまった武蔵に、「どうかなさいました、社長さま」と、女将が見上げるように尋ねた。 「いや、こりゃ失礼! 見惚れてしまいました、女将に」 「あら、あら、そんな。都会の殿方は、お上手ですから」  女将は、口元に手を当てて微笑んだ。その柔らかい仕種がまた、武蔵の心をとらえた。 「昨夜は、世話になりました。実に美味い料理でした、板さんによろしく言ってください。皆、喜んでいました」 「ありがとうございます、申し伝えておきます。如何ですか、あちらは。復興目覚ましいのじゃありませんか? 私ときましたら、ここから離れたことがございませんので、新聞で知るだけなのでございますが」 「うん、そうですな…」 「それにしても、ご(しゅ)がお強いのですね? 驚きましたわ、本当に。ご用意が間に合わずに、失礼致しました」  女将は、庭に設置してある陶製の椅子を勧めながら、自らも腰をおろした。 「いやいや。私も専務も、あれ程に飲んだのは、初めてで。何せ、床の間を埋め尽くせ! とばかりに、やりましたから」 「お体の方は、大丈夫でございますか? 少しは、お寝みになられましたでしょうか?」 「うん、少しね。しかしこんな飲み方をしていちゃあ、先が短いでしょう」
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