(六)

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 突然茂作に対し、澄江が床に頭をこすりつけて懇願した。 「お願いですから、そっとしといてください。もう、あの一座とは関わりたくないの。お父さんの怒る気持ちは分かるけど、どうぞ私とこのお腹の子に免じて、許してください」 「お前は、その子を産むちゅう言うんかい」 「はい、勿論です。お父さんの孫ですもの、大事に大事に育てます。お父さんの元で、育てさせてください」 「そ、そんなもん…」 「茂作さぁ、わしらはこれで去ぬわ」 「二人で、よう話を、しんさいな」 「子どもは、国の宝じゃ。よお、話しおうてな」  火の粉を被らぬ前にと、世話役連はそそくさと帰った。 「まったくあいつらときたら、調子の良いことばかり言いくさって。なにが国の宝じゃ。行かず後家がどうのと言いくさるくせに、子供は産めとでも言うんかい」  塩を一つかみした茂作が、玄関先で思いっきり塩をまいた。 「お父さん、そんな勿体ないことを。そんなに怒らんでください。澄江が、全部悪いんですから。でも、お願いします。子どもだけは、生ませてください。心配いりません。嫁になんぞ行かんでも、しっかりと生きていきます。お父さんと子どもと三人で、仲良く暮らしましょう」  土間に頭をこすりつけて懇願する澄江に、茂作もそれ以上のことはなにも言えなかった。
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