ある冬の朝

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 遠くから轟々と『工場』が稼働する音が響いてくる。  こんな時間から仕事を始めている人を思うとつくづく学生で良かったと実感させられる。  それも長くは続かないが。  さっきから朝日は差し込んでいるのに周囲を包む冷気が全く衰えない。  ポケットに入れている手指がかじかむ。  心なしか『工場』から立ち昇る煙が太陽の光熱を遮っているように感じてしまう。  自然と速まっていた歩みがふと止まった。  ついさっき合流した幼馴染に声を掛ける。 「手袋はいいのか?」 「だいじょーぶ!ほら、ホットドッグもあるし!」  湯気も香りも薄れきったそれを見て、幼馴染の強がりに呆れる。  道中にあった屋台はここからずっと手前だ。  きっと学生割引の誘惑に抗えなかったのだろう。小食の癖に食い意地を張った結果が見て取れる。  彼女の顔には不釣り合いな大きさのホットドッグに視線を落とす。 「一口くれよ」 「あげない。私の朝食だもん」  俺から隠すようにホットドッグが遠ざけられる。  彼女の白い息がちょこっとだけ齧られたホットドッグを撫でた。  熱を失ったそれも次第に宙へと消えていく。  ――彼女には温度の感覚がない。 「冗談だって。隠すなよ」 「何が?」  からっぽの笑みが網膜を貫く。  俺はいつまで彼女の傍に居られるだろうか。 「ホットドッグ」 「隠してないよ!」  俺が熱を失う前に彼女へこの熱を伝えられるだろうか――。
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