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出会い
どこかの蔵に座敷童が閉じ込められているらしい。
幼い頃、そんな噂が広まった。まだ幼かった俺は座敷童がどういうものなのかもわからず、一生懸命に探した記憶がある。
その閉じ込められている座敷童をどうしても助けてあげたかった。でも、見つけることはできなかった。
そんな噂も時間が経つにつれて忘れられていった。
そういう俺も、ここ夏休みに夕凪町に戻ってくるまで忘れていた。いや、正しくは祖父の遺品整理のため蔵に入るまでだが。
祖父は蔵を複数所有しており、俺は若いということで今にも崩れそうな蔵を担当することになった。
「げほっげほっ…。古いだけあって埃っぽいな…。」
重く立てつきの悪い扉を開けると埃が舞い、襲い掛かってくる。
ゲホゲホと咽こんでいるとトタタと二階を走る音がした。ネズミでも居て、僕が来たことでに驚いて逃げてるんだろうと単純に思った。
―おい。
遺品整理をしているとどこからか、凛とした鈴の様な声が聞こえる。辺りを見るも誰もいない。
気のせいだと思い、また作業を開始するとまた声が聞こえた。
―なんじゃ、聞こえない人か…。せっかく儂をここから出してくれる人が来たと思ったのにのう。
気のせいではないと思った。ガタガタと整理で大きい音がたっているのにも関わらずはっきりと声が聞こえたのだから。
俺は急いで声の主を確かめるために二階へと駆け上がった。
二階に上がるとそこには物が殆どなく、窓際に机とベッドがあるくらいだった。
そこに声の主だろうか、10歳から12歳の少女が足に枷を付けられた状態でベッドに座っていた。
その少女は俺が二階に上がってきたことに驚いたようで目をぱちくりしていた。
―なんじゃ、聞こえていたのか。でも、儂の姿は見えないじゃろうなあ。
そう全てを諦めたようなに呟くとまた窓の外を見る。そんな姿に何故か俺は悲しくなり思わず言ってしまう。
「大丈夫。俺はアンタが見えてる。」
それを聞いた少女はまさか見えるとまでは思っておらず、嬉しそうに静かに涙を流した。
それが俺、高坂聡と座敷童の千代との出会いだった。
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