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義人は、警察手帳を仕舞うと、男の顔をしっかりと見据えながら言った。
「ちょっと、署まで同行願えますか?」
男は返事をすることなく、紙袋を奪いにかかった。
義人はその男の手を掴むと、グイッと背中に回し、そのまま押さえ込んだ。
すると、周りにいた数人の男性が駆け寄ってきた。
客を装った私服警官だ。
義人は、事情を説明し、事件性をも考慮して、応援を要請していたのだ。
取り調べにより、金塊は、裏のルートで密輸されたものの1部であることがわかった。
それには、暴力団が絡んでおり、女子高生はただ小遣い程度の謝礼で、その日その時に、取り引きにつかわれただけで、男と暴力団とは、面識はない。
女子高生は駅の監視カメラにより、近くの高校に通う、高校3年生「澤田美帆」という名の女子だとわかった。たまたま、駅のホームで暴力団関係者に声をかけられ、「白いダウンジャケットで長髪の男が改札にいるから、これを渡してほしい」と赤い紙袋と謝礼として現金1万円を受け取ったという。
ただ、同じような容姿をした義人を、渡す相手と間違えたようだ。しくじった澤田美帆に、暴力団側からなんらかの危険が及ぶ可能性もあるため、警察も充分な注意を配慮しなければならない。
もちろん、これで終ったわけではない。関係する暴力団を一掃した後、密輸入のルートを特定し、残りの金塊の在処を調べなければならない。
女子高生の美帆の人違いで、大きな事件の糸口を掴んだ義人、今年もチョコの数は0のようだ。
「はぁ、今年もチョコは誰からも貰えなかったか……」と義人は、項垂れた。
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