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「考えても遅刻するだけ、仕事行くか」と準備を済ませ、濃いグレーのスーツに白のダウンジャケットを重ねて家を出る。
まだまだ、寒い2月の半ば。しかも今日は、心も寒い。
町を見れば、女性は色鮮やかな手提げ袋を手にしながら歩いている。これだけの女性が世にいるというのに、なぜ誰一人とも自分に興味をもたないのだ?
たしかに、さほどイケメンでもなく、痩せても太ってもない。職場は一流企業ではないものの、それなりに収入はある。頭は……心配するほどは、ハゲてない。だが、肩にかかりそうなほどの長髪ではある。本当はすぐにでも切りたいのだが、なかなか理髪店に行く機会がない。
つまり髪以外、トータル的に言えば、普通なのだ。
相手には特になにも注文はない。優しい人であれば、棒でもブタでもかまわない。いや、それは言ってはいけないな。痩せている人や太った人……そうか、これが嫌われる理由かもしれない。
きっと、心に思ってることが、顔に出ているに違いない。
「今年もダメかなぁ」と義人は呟いた。
いま悔い改めたとしても、急に目の前が変わることなんてあり得ない。
ため息をつきながら、人通りもまばらな、最寄り駅に着く。
改札を抜け、すぐ横にあるホームまで上がるエレベーターに乗ろうと、「△」マークのボタンを押した。
ホーム階から、エレベーターが下りてくる。
『チーーン』という、チャイムが鳴ると同時に扉が開く。
エレベーターの奥に見える鏡に、我が身を映す。
「ん?」
義人の後ろに、一人の女子高生が立っているのが目に入った。
義人は一緒に乗るのだろうと、体の向きを変え、奥に立った。
なぜか、女子高生はエレベーターに乗らず、扉が閉まらないように表のボタンを押して立ち止まっていた。
「乗らないの?」と義人が聞いた。
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