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すると、女子高生は中に入り、手に持っていた赤い紙袋を義人に差し出した。
「あの、これを受け取ってください!」
「はっ?」
義人は突然のことで、うまく頭が回らない。
「え、なに?」
「受け取ってください」
「これ……くれるの? 僕に?」
義人が聞くと、女子高生は目を閉じて俯いたまま、頭を上下に振った。
扉が閉まりかけると、女子高生は、ボタンを確認して、「開」を押す。
「あ、きみ、ホームに上がらないんだね。ありがとう受け取るよ」
義人が紙袋を受け取ると、女子高生は頭を下げたまま、「すいません」と言って、エレベーターから降りた。
「え、なに?」
扉が閉まり、ガラスから女子高生が逃げるように去っていくのが見えた。
一人の個室になったエレベーター内で、義人はジッと紙袋を見続ける。なんとなく、ズッシリとくる。
「え、マジで……マジで……嘘じゃないよな……あの子、高校生だろ……」
エレベーターは上昇し、あっという間にホームに着いた。
扉が開くと、すでに電車は来ていた。
だが義人はすぐには乗らず、一本見送ることにした。
心の中が熱くなるのが、わかる。
思わず、口元が緩み、普通に真正面が向けなくなる。
中を覗くと、なにやら赤と黒の縞模様の小箱が見えた。
「チョコだよな……今日バレンタインだもん。チョコ以外にないよな」
義人の頭の中で、いろいろな妄想が動画のように流れる。
(え、まさか、いつも通勤でくる俺を見ていた? 普段、俺が気付かなかっただけで、向こうは見てくれていた?)
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