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「……」
「これはおれなんかよりもずっと近くにいられる。みおちゃんはおれがこんなに近くに来たら緊張してどきどきすると言う。ところでそれよりもみおちゃんの近くにいるこれは何なの」
「ふ、……服着てるだけで緊張することはないじゃない?」
「どうして? ものすごく近い。……ほとんど密着している」
「あたしの服になりたいの?」
「一番近くにいる」
「服にはなれない」
「やっぱり」
「え?」
見る間に彼がやる気をなくしたようにぐったりしてテーブルに伏せった。
「おれはおれ以外のものになれない」
「……そうよ……」
「ナイフにもなれなさそう」
「――」
どきりとして、慌てて彼の手を取って、手のひらを見る。――幸い傷はなかった。もしかしたら間近で観察するために手に握ってしまったかもしれないのだから。「虫眼鏡がなくて」、扱い方も「分かんない」としたら。
でも。
ナイフで「殺せないことはない」ことを知っている。
「そう。おれがナイフだったら、自分を切ることができない。ならない方がいいみたいだ」
「……そんな理由で?」
やっぱり知っている。
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