風邪引き

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 休みの朝は遅い。今日もきっと彼は外に出たがらないと思って存分に寝た。  はっと目が覚めた時、彼は既にいなかった。 「……きっちゃん」  南向きの窓からはとっくに活動し始めてまるで登頂間際のエネルギーを放つ太陽の光が差し込んでくる。  彼は日が昇ると西向きのリビングに逃げて行く。慌てて服を着てリビングを覗く。 「きっちゃん」  ちゃんとそこにいて安心した。ほ、と息をつく。声を聞いた彼が振り向くのだった。 「なに」 「あ……、おはよう。すごい寝ちゃった」 「寝てたね」  彼女の睡眠には興味が失せたように、彼はまた背中を向ける。 「みおちゃん」  しかし、名前を呼ばれて、構わず隣に寄り添って座った。 「……宅急便、出られなかった」 「宅急便?」 「ピンポン鳴った」 「ピンポン? うそ。全然気づかなかった……」 「おれ、それで起きたんだ。出られなかったけど……」 「そうなの。てことは何か連絡票入ってるんじゃないかな」  取りに行こう。 「宅急便……て、よく分かったね」 「おれの荷物だよ、たぶん」 「何か買い物でもしたの」 「うん。まあ」  彼女は顔を洗って、ポストのある1階まで下りて行った。案の定入っていた不在票を持って戻る。  確かに彼宛だった。  彼に紙を渡すと、携帯を手にしたものの、固まってしまった。 「……どしたの」 「今日がいい」 「うん……まだ間に合うと思うよ?」 「今日で、いい、か?」 「大丈夫よ?」  ふう、とため息をつく彼。緊張しているのか手が震えていた。
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