風邪引き

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「……結構、遊ばれてしまう名前なのね」 「ついに『きっちゃん』になった」 「端的で正解じゃない?」 「――そういや『オイ、キタロウ』ってのもあったな」 「ぷっ」  つい吹き出してしまった。ぐったりする彼の頬を撫でる。 「いっぱいあるね」 「つかれるだろ」 「あたしはほとんどあだ名ってレベルじゃなくてそのまま、が多いから、何とも言えない」 「え、『かしわもち』はあだ名じゃないの」 「ちょっと! 元気出て来た? まったく……」  彼女の名字が柏谷といい、肌がお餅のように白くもちもちしていたこともあって、そう呼ばれていたこともあった。その話を一度彼にしたことがあった。覚えていてくれたのだろう。 「失礼しちゃうよね。餅だなんて、真ん丸に太ってるみたい」 「害はない」 「ないかもしれないけど!」  彼はため息をついて額を膝に押し当てている。 「よりによっておれが長生きなんてさ……」  何も言えない。「生きて」などと言うと彼を苦しめるんじゃないかと感じて。今度こそナイフのお世話になるんじゃないかと思うと、自分こそ怖くて。  だけど、「長生きしなきゃいけないわけではない」のと同様に、「短命でいなきゃいけないわけでもない」。どう伝えたら彼を苦しめないだろう。     
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