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「まあ……無理して長生きする必要はないのは分かるわ」
精一杯のフォローだった。
黙って流れていく時間を見送る。時間が流れることを残酷に思う。「どうして」と思う。それでも止まってほしいとは思わない。時間が止まれば彼はずっとこのままだ。
止めなくていい。
彼の涙を止めないのも止めなくていいと感じるから。
空っぽになったところに、何かしら今までとは違うものが入ってきてくれると、どこかで信じたいから。
毎日、彼女が仕事に出かけている時もこうなのだろうか。
黙って時間を見送って、時折涙を流して。当たり前と思っていた「止まらないで流れていく時間」を訝しく思って。「止めたい」と言って。
しかしその時点で彼は止まっていない。
無理をしなくても、時間は流れていく。苦しいと思っていても楽しいと思っていても同じように時間は流れていく。
止まっているようでも、実は進んでいる。
彼の胸にそっと耳を押し当てた。
「……なに、みおちゃん」
「観察」
「そうか」
落ち着いた鼓動。
彼の時間が進む証拠。「ずっとこのまま」なんてことはないという証拠。
「無理をして生きる必要はないわ」
「殺してくれるのか?」
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