風邪引き

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 耐えられなくなってシャッターの下りたお店の前で立ち止まった。待ち合わせをしているふりをして。街灯を見上げる。  眩しくて目を背けた。  灰色のブロック塀に貼られた、求人の紙。どこにあるのかも分からないお店の名前だった。  こうして見ると、確かに。  彼が息苦しさを感じるのも無理はないなと思う。  ついていけない。  携帯が振動した。何回も。  電話だった。 「――どこいるの」 「……きっちゃん」  震えた彼の声を聞くなり、涙がこぼれてきた。 「だいじょう、ぶ……っ、もう商店街いるから、帰れるから……」 「本当に?」 「まってて……」  電話を切る。  気力を振り絞ってシャッターから離れた。  人の流れについていく。マフラーを目元まで引き上げて、泣きっ面は隠した。  ごそっと人通りが少なくなったところで、マンションの入り口が現れた。  やっと自分たちの部屋に着いた。部屋の中は明るい。 「……きっちゃん……」  呼びながら中に入ると――そこにコートを着込んだ彼がいた。 「どしたの、出かけるの……?」  彼はぶるぶる震えている。彼女といい勝負で。 「もしかしてきっちゃんも具合悪いの……」  しゃがんですり寄った途端、彼がわあああと大声を出した。 「なっ――なに――」     
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