2人が本棚に入れています
本棚に追加
耐えられなくなってシャッターの下りたお店の前で立ち止まった。待ち合わせをしているふりをして。街灯を見上げる。
眩しくて目を背けた。
灰色のブロック塀に貼られた、求人の紙。どこにあるのかも分からないお店の名前だった。
こうして見ると、確かに。
彼が息苦しさを感じるのも無理はないなと思う。
ついていけない。
携帯が振動した。何回も。
電話だった。
「――どこいるの」
「……きっちゃん」
震えた彼の声を聞くなり、涙がこぼれてきた。
「だいじょう、ぶ……っ、もう商店街いるから、帰れるから……」
「本当に?」
「まってて……」
電話を切る。
気力を振り絞ってシャッターから離れた。
人の流れについていく。マフラーを目元まで引き上げて、泣きっ面は隠した。
ごそっと人通りが少なくなったところで、マンションの入り口が現れた。
やっと自分たちの部屋に着いた。部屋の中は明るい。
「……きっちゃん……」
呼びながら中に入ると――そこにコートを着込んだ彼がいた。
「どしたの、出かけるの……?」
彼はぶるぶる震えている。彼女といい勝負で。
「もしかしてきっちゃんも具合悪いの……」
しゃがんですり寄った途端、彼がわあああと大声を出した。
「なっ――なに――」
最初のコメントを投稿しよう!