風邪引き

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 お互い仕事に就いて同棲し始めた頃は、多少なりとも幸せだった。  今はそうじゃないと言ったら間違いになる。  大事な交際相手と時間を共にできる幸せ。  しかしそれは同時に、挫折してどん底にいる時間のような、辛い時間をも共有することだった。  病は人を弱気にする。彼の中にできた心の闇はあっという間に大好きな彼のことを弱らせていった。  彼は元々内向的で対人関係の構築にも苦労する質だった。発話が苦手だ。決して悪意はない。  人に「報告・連絡・相談」することは彼の最も苦手とすることの1つ。悪気があって怠るわけでないのに、上手くできない。 「居づらい」。そう言い始めた頃はろくに食事もしなくなって、痩せていた。だんだん仕事に行けなくなった。1日中部屋に引きこもるようになった。  実家にも帰りたくないらしい。生活費はまだ何とか貯金でやりくりすると言う。  夜になると「死にたい」と言って、動かなくなる。酷い時には泣いていた。     
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