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日が沈んで暗くなると、彼の世界も幕を下ろして闇に飲まれ、彼の気持ちは行く手を失う。だから塞いでしまうのだろう。
「おれのことを愛している?」
「ええ」
「なら、殺して」
「そんな」
今日の彼はとりわけ塞ぎこんでいた。布団に潜り込まないでリビングに出てきてくれるだけましだ。
背の低いテーブルの前に、膝を抱えて座っている。朝彼女が家を出てきた時とほとんどいる位置が変わっていない。
間違い探しのように、朝と違うところに――異変に気づく。
彼の目の前のテーブルの上にある、果物ナイフ。ツナ缶。
ツナ缶を食べるのにナイフなどいらない。
しかし使った形跡も見られない。部屋の電気を映して寂々と、なぜか腹がすわったように光っている。
こんなふうに落ち着き払って、触れてくるものを切り裂くのだろう。
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