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「愛する人が苦しむのをこれ以上見たくないだろ」
「だから殺してくれって言うの」
「おれが死にたいと言ってる」
「愛しているなら言うことを聞けって言うの」
押し問答を繰り返しているうちに気が立ってきてしまったのか、彼は怒った猫のような低い唸り声を発してぎゅっと目を閉じた。肩を震わせて自分の脚を拳で殴りつける。
「だめ、痛めちゃう……っ」
慌てて手を止める。
「じゃあどうしたらいい! どうしたら!」
喚いて振り落とそうとするところを、彼女は何とか押さえる。
「そもそも愛していても、何でも言うことを聞くなんて約束できない。愛することはわがままを聞くことじゃあない、あたしにとって」
「ただのわがままだって? 生死に関することなのにわがままだって」
「あたしに殺されていいの」
「いいよ」
「どうして……」
「愛されている」
「でも」
「ならやめろよ。愛するのを。そういうことだろ」
「……」
彼の状態が良くないことは分かっていてもそう言われると返す言葉がない。
震える彼女を見て――彼はだるそうに目を閉じた。
「あのね。――やめたところであたしはここを出て行かないと思う」
「何で」
「それは普通に、今出て行くと色々面倒だから」
「まあ、じゃあいいじゃん。出て行かなくても」
「――じゃあどうして、寝る時に『離れたくない』って言うの」
「……離れたくないから」
「それはどうしてなの」
「わからない」
「……」
お互いに「好き」と言って交際を始めたはずなのに。離れたくない理由が「好きだから」だと決めつけるのも変かもしれないが。
「離れたくない」気持ちも、このままでは彼が涙を流したらこぼれ落ちて行ってしまう。
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