風邪引き

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「何でも許すとはいえ、あたしばかり許してはいられない。きっちゃんもあたしを許さないと」 「おれのことを切る許可」  これを真顔で詰め寄るように言ってくるなんて、今日は何か嫌なことでもあったのだろうか。 「違うったら」 「違わない――」  彼女の手を掴んで、ナイフの柄を持たせようとする。 「だめ……だめよ」  柄を握るのを拒む。 「じゃあどこからでもいいから」 「だめったら」 「ここがいいか?」  手が離される。向かう先は穿いているズボンだった。脱ごうとするのでどきりとして止める。ふるっと首を振って拒んだ。 「あのね……いい子だからそんなことできない」 「フフ」  彼女の切り返しが面白かったのか、唐突に肩を震わせて笑い出した。  細くなった目は鈍く光っている。  お腹の辺りを抱えて震える彼。 「そんなにおかしかった?」  思わず聞く始末だ。 「いい子なんだ? 持ち主に似てめんどくさがり、出不精なのにさ」 「……もう、だからって、だめでしょう」 「欲しい?」 「あたし? うーん……それはあたしがおねだりしたところでって感じ。でも……」 ――だからってナイフなんか向けちゃだめでしょう。 「でも、何だ」 「ううん。何も。あたしがナイフ持って手を下すものじゃないから」 「フフ」  彼にその気がなくなっていることも承知の上で交際を続けている。
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