風邪引き

9/41

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「脳はあっても、それを使って考えたこととかそこから出てくる個性とか、魂なんて見えないんだから。手に取って確かめようがないのよ」 「……何言ってる?」 「そのままよ。深い意味はない」 「じゃあ、みおちゃんは人を見た目だけで判断するの、か?」 「――そこまで言ってない」  でも、そう言われるとどきりとする。  確かにそう広げられてもおかしくない。実際に見えるものでしか判断しないのかと、問われてもおかしくない。 「魂は目に見えないけれど存在することは確かじゃないの」 「そうだな。作文でも書けば何とか可視化できる」 「作文書く? 何年何組、誰それって……」  笑い混じりに返したら、彼は真顔で「原稿用紙がない」と言い出した。それですぐにやる気をなくしたのか、ため息をついてぐったりテーブルに肘をついた。  そっと手を握ってみる。  しばらく彼の手は彼女の手を探るように撫でていた。これは何でできているのだろうと精査する学者さながら。  やがて、「同じかもしれない」と悟ったように手の動きは止まった。「自分の手と同じかもしれない」と。 「内面を重視するのが良いみたいな風潮も、全然問題はないけれど、よく考えたらおかしな風潮だよな」 「平和な生き残りだよね」 「すき、それ」 「……すき……?」     
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加