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「あなた、不幸になりますよ。」
ピンクのフリフリメイド服を着た童顔の女性が、悪魔みたいな男が嘆いている様子の描かれてるタロットをジッと見つめたまま、低い声で呟いた。よくドラマや漫画などで聞きなれた、いかにも、インチキくさい占い師や詐欺師が言いそうな言葉をこうやって目の前で聞くのは初めてかもしれない。
「ええええ、ひかるくんたいへんじゃん」
わざとらしいくらい心配そうな声でそう言いながら、俺の顔を覗き込む亜未。
そんな俺らの様子を吸い込まれそうな大きな黒い瞳が、じっと見つめていた。俺の視線に気づいたのか、占い師らしからぬゴスロリ風のメイド服をきた女の赤い唇が弧を描く。
「大丈夫ですよ、おにーさん」
「ええっとこれね、可愛い彼女のためにもサービスです」
俺らに背を向け、小さな箱から何かをごそごそと取り出しはじめた。そして、またくるりと振り返りニコニコしながらハイとニコニコと渡され、思わず手を差し伸べると、それは真紅のハート形の防犯ブザーのようだった。
固いプラスチックでできたハートの下に防犯ブザーにあるような硬めの紐が伸びていた。
「なあにこれ、でもなんか意外にもかわいいけど」
俺が怪しんでいるにも関わらず女子特有のなんでもかわいいを言いながら、俺の右手に置かれたブザーを勝手に取り、眺める亜未。そんな亜未から占い師が、手早くスッとブザーを取り上げ、ついていたヒモを抜き取る。え、と思い思わず体を仰け反らせてしまう。が、音がしない。
隣の亜未も防犯ブザーだと思っていたらしく、ブザーと占い師を見てあぜんしている。
そして、そんな中、相変わらず入った時と変わらない聞き覚えのあるジャズピアノのBGMだけが、俺達3人の間に流れていた。
「この不思議な防犯ブザーがきっとあなたを不幸から守ってくれますよ、浅海くん」
これが、俺とヘンテコ占い師との出会いである。
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