0人が本棚に入れています
本棚に追加
姉はどこか寂しげな、優しい笑顔を浮かべていた。
「今までっ…ありがとぅ。」
「っ…うん!私も、今までっ、ありがとう!」
大好きだよ、ーー。
最後に言葉が聞こえる前に、姉の姿は雪と太陽の光に紛れて見えなくなった。
僕は崩れるように膝をついた。
目と喉が焼けるように熱い、堪えていた涙が溢れるように流れ出した。
道路の凍結による、トラックのスリップ事故だった。
姉は僕をかばって、トラックの下敷きになり死んでしまった。
舜殺だったと淡々と語る医者、土下座をして嗚咽声をあげるトラックの運転手(加害者)、悲痛の声をあげる両親(被害者)。
僕にはその全てが信じられず、なにも受け入れられなかった。
受け入れて、泣くことさえも出来なかった。
僕はこの何もない静かな町が嫌いだった。
でも、この町から出たいなんて考えたこともなかった。…姉さんが、いたから。
姉さんの回りはいつも明るく騒がしかった、町のつまらなさや静けさなんて気にならないほどに。
でももう、だめなんだ。
あの明るい鈴のような声は聞こえない、騒がしい笑い声も、いつも楽しげな足音も、なにも聞こえない。
何もかも嫌なんだ。
姉さんがいなくなった町は、本当に静かだった。その現実を知る度に、姉さんが死んだ事実を叩きつけられた。
最初のコメントを投稿しよう!