甘い香り

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 で、店長は昔を彷彿とさせる黄色のスカジャン。背中には牙を剥いた大きなトラが睨みを効かせている。そのうえ、大きめのサングラスをかけて。  車のハンドルを握る手には黒い革の手袋、指先はないやつ。もう、釘バットを持たせれば完璧。  しかも今日1日、俺は店長を「姉さん」、店長は俺を「ユキちゃん」と呼ぶようになっていて。そこまでするか?って思ったけどさ。  店長が「姉さん」って呼ばれてあまりにも嬉しそうにするもんだから。あぁ、弟が欲しかったんだなって。  こんな姉は嫌だ!とか思いながらも、しかたねぇなって承諾。店長は呼びやすいよなぁ?普段バイトの時に呼んでる呼び方だし。不公平だろ。  周りから見たら俺達、かなりヤバいよな。ヤがつく怖い姉と、中二病こじらせてる引きこもりだが無理矢理連れ出されたかわいそうな弟?  こんな状態で、若い女と子供に人気の店に行くのかよ。今頃になって、嫌になってきたぜ。  まぁ、いつどこで知り合いに目撃されるともわからない。香さんに見つかれば確実、悠一にバレちまうからな。  今日1日だけだ!そう自分に言い聞かせて、前にその店に行っていたという香さんにもらった割引券を眺める。  すごいよな。香さんと緋桜さん、男2人で普通に行ったらしい。しかも超意外なことに、緋桜さんが甘いチョコが好きだとか。イチゴチョコを食ってる緋桜さんとか、全然想像できねぇ。
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