甘い香り

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 真っ青な顔でガタガタ震えあがっている対向車の運転手に殴りがかりそうだったので、即座に外していた店長のシートベルトを装着。  手にハンドルを握らせる。もっと前を見ろ、前を。事故でもっとすごい、玉突き事故が10台くらい。 「あれ、事故マニアじゃねぇの?ほら、こっちに向かって走ってきて……うわぁっ!?」 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ、踏みつけたわねぇっ!!!!ブッ殺すっ!!!!」  遠くの方から1匹の犬、事故マニアが走ってきていた。かと思えば止まることなくまっすぐ突っ込んできて、ガガンッ!と、俺の真上で音が。  あ、上を通ったな。なんか、すっげー泣いてたような気がするんだけど。泣きながら必死に何かから逃げてて、後ろでまた車同士がぶつかる音。  直後、バサバサッ!と、事故マニアが逃げた方向に真っ黒い何かが飛んでいった。あれ、今のってもしかして…… 「チョコはなしよ、ユキちゃん!今からあのクソガキをブッ殺す!」 「えぇーっ!?それはだめだって、姉さん!ほら、あともう少しで店に着くしさ、この割引券の使用期限だって今日までなんだ。それに、あんなに行きたがってたのに2回も行かずじまいでいいのかよ?」  あぁもう、店長が大爆発してなかなか治まらねぇ。  危うく事故りかけただけでなく、事故マニアに車の屋根を思いっきり踏みつけられたんだもんな。店長にとってこの愛車は自分自身。
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